ISのイデオロギーとの戦いに終わりは見えない

イラクのモスルがほぼ陥落したようです。ISがカリフを宣言してから3年くらいでしょうか。やっとという感じもしますが、とにかくよかったという気がします。

しかし住んでいる人達にとっては本当に災難でした。宗教に背いたというだけで平気で人を殺す連中の恐怖政治の元での暮らしは一体どんなものなのか、想像もつきません。同性愛者などは高いビルの屋上から突き落とされていました。またヤジディ教徒の若い女性をさらってきて、性奴隷にしていました。やっとそんな生活から解放されて住民はほっとしているのではないかと思いますが、それでもイラク軍の攻勢やアメリカ主導の合同軍による空爆で、かなりの人達が亡くなったようです。モスルの映像を見ると、都市全体が廃墟と化した感じです。愛する人を失った人もたくさんいるでしょう。

そもそも最初にモスルがISに奪取された時、モスルにいたイラク軍はほとんど戦うことなく撤退しました。そんな訓練の行き届かない軍を残して撤退したアメリカにも責任がありそうですね。オバマ大統領が軍を撤退完全させたのは、イラクのマリキ首相との間で地位協定を巡って合意できなかったからだといいます。

オバマはほんとは一部軍を残すつもりでいたようですが、マリキ首相がイラク人を殺したアメリカ兵に対する司法管轄権をイラクに持たせろと主張したために、全軍撤退するしかなかったようです。当時イラクではアメリカ兵がイラクの一般人を殺害することが頻発していました。アメリカ兵がイラクの通りをパトロールしていると武装勢力が攻撃してくるのですが、それに対して反撃する中で一般の人達も巻き添えにするのです。また家々で武装勢力の捜索をする中で、一般人を殺してしまうこともよくありました。アメリカ兵は不法にイラク人を殺害したとしてアメリカで何人も軍法会議にかけられたのですが、ほとんど例外なくみな無罪になりました。

イラク人から見れば、不必要にアメリカ兵がイラク人を殺しているのですが、それが全部無罪とされるのですから、たまったものではなく、非常に不満が溜まっていました。それがまたアメリカ軍に対する報復攻撃につながって、悪循環になっていたと思います。ですからイラクの首相としては不法な殺人と思われるものは自国で裁きたかったのです。

しかしもちろんアメリカとしては自国の兵士をイラク側に引き渡すなどできるはずのない相談です。国のために命がけで戦っている兵士達を相手に渡して、相手がその兵士を有罪にしたら、アメリカ国民が黙っていないでしょう。国のために戦っているのに、その国が兵士を守らないなら、兵士の士気にも関わってくることです。ただでさえリクルートに苦労していたのに、兵士になろうとする人がいなくなってしまったでしょう。ですからオバマとしては軍を全面撤退させるしかなかったのです。

またもしそのような地位協定を認めたら、他の国との関係にも影響が出ます。たとえば日本でも公務中に犯罪を犯した兵士の裁判権はアメリカ軍にあり、日本に身柄を引き渡す必要はないのですが、もしイラクとそのような地位協定を結べば、日本や韓国、ドイツなど、他に米軍が駐留している国でも地位協定を変えなければならないでしょう。ですから他国とのバランスも考えてイラクを特別扱いできなかったのです。

しかし確かにその代償は高くつきました。ISは領土を持ち、住民から税金を徴収し、資源を売って疑似国家として機能しました。世界中から武器や戦闘員を集め、多くのテロリストを訓練しました。領土はもうすぐ失ってしまうでしょうが、イデオロギーや戦闘員はいなくなりません。出身国に戻っていくISの元戦闘員達が今後自国でテロを起こすことが考えられます。ISが最初に結成された時に、断固として対応できればそのような苦労をする必要はなかったでしょうが、今後しばらく世界はこの後始末に追われることになると思います。

またこれからもISはモスルのような疑似国家を作ることを目指すと思います。最近ではフィリピンでその動きが見られました。ミンダナオ島の都市マラウィで武装勢力が蜂起しました。フィリピン政府軍が対応に当たっていますが、かなり手強いようです。デュテルテ大統領は戒厳令を敷いて対応していますが、もしきっちりと武装勢力を掃討してしまわないと、フィリピンの中にモスルのようなISが支配する疑似国家ができてしまうことになるでしょう。そんなことを許すわけにはいきませんから、フィリピン軍は今が踏ん張りどころでしょう。

ISのイデオロギーとの戦いに終わりは見えない